第六話

リビングの机の上で珍しく勉強道具を広げる。来週の日本史のテストに備えるためだ。

ここに日本史の教科担当がいるんだから教わればいいと考えていたが、暗記物は結局自分が勉強しなければならないので一人手を動かす。

しかし覚えらんねぇ。徳川家いすぎだろ。

何人もいる徳川の人間に悪戦苦闘してると、直江が口を出してきた。

「じゃあもっと簡単なとこからやりましょう」
「簡単なとこ?」
「ええ、織田信長とか分かりやすいでしょ?テストしてあげますから答えてくださいね」

突然始まった個別授業にあせる。
織田信長とか「信長の野望」ってゲームしかやったことない。いやまぁ、簡単だろ信長とか。

「来い信長!」
「はい。では、京都の本能寺で信長を破ったのは?」
「はいっ。明智光秀」
「では安土の城下町に出した法令は?」
「えーと楽市令」
「じゃあ浅井氏と朝倉氏をやぶった戦いは?」
「え…あ、姉川?」
「翌年信長が焼き打ちを行った寺は?」
「………え…えーと」
「比叡山延暦寺ですよ」
「では騎馬隊で武田勝頼の軍に大勝した合戦は」
「…………」
「長篠合戦」

「くそ…信長…!」

信長を舐めていた…。俺は今日完全に信長に敗れた。

「あーもーこっから暗記かよ。来週まで間に合うかなぁ」
「大丈夫ですよ。ほらちょっとずつでも進めましょう」

ノートに突っ伏する俺の頭を直江が撫でる。あー俺の馬鹿、去年からちゃんと授業受けてりゃよかった。

「高耶さんはやらないだけで元々頭いいんだから」

直江は元気出せという風に頭をポンポンしてきた。
なんだその阿呆を慰める常套文句。そう慰められると逆に悲しくなる。

「…お前はなんか家では甘いよな。学校じゃ割りと厳しい方の先生なのに」

というか直江は生徒に隙を見せない空気がある。気がする。家じゃこんなにユルユルなのに。

「そうですか?まぁ厳しい教師ほど自分の娘には甘いっていうのはよくありますしね」
「って俺は娘かよ」

あははと笑う直江の肩に力を入れてこずく。

「あ、もうこんな時間か…」

時計の針は8時前を指している。

「もうちょい勉強したら帰るから」
「泊まってけばいいのに」
「一昨日泊まったばっかだしさ」

不満そうな顔をする直江にちょっと笑った。

「またすぐ来てください」
「ん。何食べたい?」
「魚とか食べたいですね」
「じゃあサバの味噌煮でも作っか」

娘でも通い妻でも、ずっとこのマンションに来られたらいいなと思う 。
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